働きやすさと成長環境が、これからの宿泊業の課題
では、先日ホテル日航 福岡にて開催された「じゃらんフォーラム2026(https://www.jalan.net/theme/info_forum/#time)」の続き記事になります。
「じゃらんフォーラム2026」に参加!宿泊業界の最新動向をチェックしてきました【Part.8】
前回の記事では、働き方の改善、業務負荷の軽減、公平な評価制度、そして成長を実感できる育成・キャリアパス。この4つをバランスよく整えることが、これからの宿泊業が働く人に選ばれ、持続的に成長していくための重要な鍵になると感じました。
【じゃらんフォーラムとは?】
昨年顕著な成果を残された宿泊施設を表彰するじゃらんアワードや、盛りだくさんのコンテンツを企画するイベントです。
引き続きじゃらんフォーラムにて「株式会社インディードリクルートパートナーズ リサーチセンター 上席主任研究員」の宇佐川 邦子さんによる宿泊施設の「人材不足」に注目したセミナーをご紹介したいと思います。
「選ばれ、共に歩む」宿泊業へ
では順に見ていきましょう。
業務効率化の余地はまだ大きく残されている
業務効率化に関する調査では、多くの従業員が「まだ改善できる余地がある」と感じていることが紹介されました。
正社員・アルバイトともに、「業務効率化は3〜5割程度しか進んでいない」と回答した人が最も多く、現場にはまだ多くの改善余地が残されています。また、約半数の正社員が日々の業務の中で「無駄や非効率を感じている」と回答しており、現場の負担は依然として大きいことが分かります。
人手不足が深刻化するこれからの宿泊業では、人を増やすだけでなく、業務を見直し、効率化を進めることが重要です。限られた人材でも働きやすく、生産性の高い職場を実現するためには、現場の無駄を減らし、本来の接客やおもてなしに時間を使える環境づくりがますます求められると感じました。
宿泊業のAI活用は、まだこれから
AIの活用状況についての調査では、宿泊業は他業種と比べても導入が進んでいない現状が紹介されました。
宿泊業でAIを日常的に利用している人は約1割にとどまり、約4人に3人は「ほとんど利用していない、または利用したことがない」と回答しています。IT業界や金融業界などではAI活用が当たり前になりつつある一方で、宿泊業にはまだ大きな伸びしろがあることが分かります。
人手不足が続くこれからの時代、AIは人の仕事を奪う存在ではなく、業務負担を軽減し、スタッフがおもてなしに集中するためのパートナーです。予約対応や問い合わせ対応、事務作業などをAIに任せることで、限られた人材でもより質の高いサービスを提供できる環境づくりが、今後ますます重要になりそうですね。
宿泊業への満足度は高い一方で、働き方には課題も
興味深かったのは、宿泊業で働く人の仕事に対する意識です。
調査では、「この仕事が好き」「自分に向いている」と感じている人の割合は全産業平均より高く、多くのスタッフが仕事そのものには魅力ややりがいを感じていることが分かりました。また、「今後も働き続けたい」と考える人も7〜8割を占めており、宿泊業への愛着は決して低くありません。
一方で、正社員の約4割は勤務時間を減らしたいと回答しており、仕事への満足度とは別に、労働時間や働き方には改善の余地があることも見えてきました。
つまり、宿泊業は「仕事が嫌で辞める」のではなく、「働き方が厳しくて続けられない」という課題が大きい業界です。だからこそ、業務効率化や適切な人員配置、柔軟な働き方を実現することで、今いる人材の定着にもつながることが改めて示されました。
雇用形態ではなく、一人ひとりに合わせた職場づくりへ
正社員だけでなく、アルバイト・パートを含めたすべてのスタッフに対して、同じ視点で職場環境を整えることの重要性が紹介されました。
ポイントとなるのは、「働き方」「業務負荷の軽減」「評価と報酬」「育成・キャリアパス」という4つの要素です。雇用形態で一律に考えるのではなく、一人ひとりのライフスタイルや希望に合わせて、働き方や役割、成長支援を設計することが求められています。
また、自分に期待されている役割や成長の道筋が明確になることで、働く意欲や定着率の向上にもつながります。これからの宿泊業では、「正社員」「アルバイト」と区別するのではなく、それぞれが安心して力を発揮できる環境づくりが、組織全体の成長につながることが強調されていました。
4つの要素が好循環を生み出す
講演の後半には、「働き方」「業務負荷の軽減」「評価と報酬」「育成・キャリアパス」の4つは、それぞれが独立した取り組みではなく、互いに連動しながら好循環を生み出すことが紹介されました。
働きやすい環境と業務効率化によって心身の負担が軽減され、その上で適切な評価やフィードバック、成長できる仕組みが整うことで、スタッフの意欲やスキルが向上します。その結果、お客様満足度(CS)や売上の向上につながり、その成果を再び人への投資に還元することで、さらに働きやすい職場が実現します。
人材不足の時代だからこそ、「採用」だけではなく、「人が育ち、活躍し続ける仕組み」をつくることが、宿泊業の持続的な成長につながる――。そんな未来志向のメッセージで締めくくられました。
働きやすさへの投資が、人材定着と業績向上につながる
沖縄県那覇市の株式会社髙倉コーポレーション(ホテル パームロイヤルNAHA)の取り組みが紹介されました。
同ホテルでは、「家庭と仕事の両立支援」「業務負荷の軽減」「独自の評価制度」「人材育成」の4つを柱に、働きやすい職場づくりを推進。その結果、業界トップクラスの高い定着率を実現し、多様な人材が長く活躍できる組織づくりに成功しています。
また、利益が上がった後ではなく、将来への投資として業界相場よりも先に賃金を引き上げるという考え方も特徴的でした。
「人への投資はコストではなく、企業の成長につながる投資である」という姿勢が、高い定着率や従業員の主体性、そして業績向上へとつながっている好事例として紹介されていました。
「人への投資」が会社の成長につながる
ホテル パームロイヤルNAHAを運営する株式会社髙倉コーポレーションでは、「人の成長が会社の成長につながる」という考えのもと、人材への投資を積極的に行っています。
利益が出てからではなく、将来を見据えて賃金を先行して引き上げるほか、ライフステージに応じた柔軟な働き方や、子育てと仕事を両立しやすい職場環境を整備。さらに、明確な評価制度と育成・報酬を連動させることで、社員が成長を実感できる仕組みを構築しています。
「あたりまえ」を見直し、人が集まる旅館へ
福井県あわら温泉の清風荘では、旅館業界の「あたりまえ」を見直し、働きやすい職場づくりに取り組んでいます。
中抜き勤務の撤廃をはじめ、業務マニュアルの整備や評価項目の見える化・数値化を進めることで、誰もが公平に評価され、安心して働ける環境を構築。その結果、3年間で正社員23名の採用に成功し、社員の主体性も向上しました。
さらに、賃金水準は福井県内トップクラスとなるなど、働きやすさへの投資が、人材確保と組織力向上につながる好事例として紹介されました。
「旅館のあたりまえ」を変え、人が集まる職場へ
清風荘では、「若者に選ばれる旅館」を目指し、従来の旅館業界の常識を見直す改革に取り組んでいます。
代表的な取り組みが、中抜き勤務の撤廃やマルチタスク化、動画マニュアルの活用です。業務を標準化することで教育負担を減らし、サービス品質の向上と業務効率化を両立。また、「人を叱る」のではなく「マニュアルを改善する」という考え方も印象的でした。
さらに、評価基準を数値化・見える化し、昇給や昇格と連動させることで、スタッフが何を目指せばよいかを明確化。こうした改革により、主体的に働く風土が生まれ、人材採用や定着にもつながっているそうです。
DXと働き方改革で全国から人材が集まるホテルへ
北海道・知床の北こぶしリゾートでは、「働きたいホテル」を目指し、人事制度と働き方改革を一体で進めています。
年間休日130日の実現に加え、業務の「断捨離」やDXを徹底し、生産性を向上。さらに、ミッション・ビジョンを軸とした人事戦略を展開することで、社員一人ひとりが目的意識を持って働ける環境を整えています。
こうした取り組みの結果、全国から優秀な人材が集まり、シェフ7名を含む多様な人材が活躍する組織へと成長。「働きやすさ」と「働きがい」の両立が、人材確保につながっているようです。
「働く人に選ばれる宿」をつくる具体策
そして「働く人に選ばれる宿泊業」を実現するための具体的な取り組みも紹介されました。
働き方では、固定シフトや連続休暇、週休3日制など、多様な勤務制度を導入。業務面では、DXや業務分担によって負担を軽減し、働きやすい環境づくりを進めています。
また、評価基準や賃金制度を見える化し、成長が報酬につながる仕組みを整備。さらに、キャリアマップや定期的なフィードバックなどを通じて、一人ひとりの成長を支援することが、人材の定着につながる重要なポイントとして紹介されました。
さいごに
講演の最後には、人材の採用・定着・活躍につながる4つのポイントが示されました。
まとめ|「選ばれる職場」づくりの4つのポイント
それは、「働き方の改善」「業務負荷の軽減」「評価と報酬の連動」「育成・キャリアパスの見える化」です。
休日や勤務時間の柔軟性を高め、業務を効率化して心身の負担を減らすこと。そして、評価基準を明確にし、成長が報酬につながる仕組みを整えることが重要です。
さらに、一人ひとりの役割やキャリアを見える化し、個々の状況に寄り添った柔軟な支援を行うことが、「働き続けたい」と思える職場づくりにつながるというメッセージで締めくくられました。
人材不足は避けられない時代だからこそ、「選ばれる宿」を目指す取り組みが、これからの宿泊業の競争力を大きく左右していきそうです。
今回の講演を通じて感じたのは、これからの宿泊業は「お客様に選ばれる宿」であると同時に、「働く人から選ばれる宿」であることがますます重要になるということです。
人への投資こそが、これからの宿泊業の競争力を支える大きな鍵になると感じました。
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